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予防法務からADRへ

片山行政法務事務所 片山 武史 (行政書士)

第1回 予防法務からADRへ

1.増加の一途をたどる法律に係るトラブル

 生涯にただの一度も医者の世話になったことのない人がまずいないように、法律に関連する何らかのトラブルに一度も巻き込まれずに生涯を終える人もまたいないのではないでしょうか。
 裁判所に持ち込まれる事件数は過去30年間で、地裁通常訴訟が1.7倍、遺産分割が2.2倍、婚姻関係が1.8倍、簡裁調停に至っては実に6.5倍と大幅に増加しています。
 高齢社会の到来、権利意識の高揚、規制緩和による事後調整型社会への移行等から、今後ともこうした法律上のトラブル解決のニーズは増大するでしょう。

2.法律が有する紛争予防と解決のための調整機能

 ところで法律は、国民がその日常生活において正当に権利を行使し、また義務を履行することによって、円滑な社会生活を送るとともに成熟した民主主義社会が実現するよう、権利・義務の内容と行使の方法を定めたものですから、そこには本来、紛争を未然に予防するという機能がまず期待されるとともに、紛争が発生した後には、その解決のための調整機能を併せ持つ基準となるべきものに他ならないものと考えられます。
 日々の生活は実際には数多くの法律行為の積み重ねによって成り立っている訳ですが、日頃からそのことを意識することはまずないでしょう。いざことが起こった時点で、紛争予防機能や解決のための調整機能を有する法律に依ることなく、自己の常識や経験・感覚・理屈といった当事者間で相互に異なる「物差し」を基準としてしまうところに、ことが必然的に一層紛糾する結果を招くこととなってしまう原因の一つがあります。

3.予防法務の重要性(1) 〜法律をもっと国民に身近な存在に

 このことから、日常行われる様々な法律行為(売買・賃貸借等の契約、婚姻・縁組等の身分行為、遺言・相続等)について、法律上の要点部分を予めある程度理解したうえで行うのと行わないのとでは、その後の結果に大きな違いを生み出すことになります。
 例えば遺産分割において当事者が、相続人の範囲・順序と法定相続分、遺留分、寄与分といった基本知識を正しく理解しているだけでも、親族間での骨肉の争いに発展することを未然に防げるケースは多いでしょう。また最近、出会い系サイト業者等の「サイト利用料」について「債権譲渡」を受けたとして回収代行を装い電報等を利用した悪質な請求行為や、ヤミ金融業者による債務者以外(親族や隣近所)からの回収を図る脅迫的追い込みが社会問題化しています。こうした場合でも、債権譲渡の成立要件や保証人でもない限り債務者以外の者には法律上弁済義務がないこと等の法律上の「要点」を知っていれば、被害者となるケースも激減するでしょうし、結果としてそうした悪徳業者の減少にもつながると思われます。

4.予防法務の重要性(2) 〜紛争解決に要する負のエネルギー

 それでも当事者間の話し合いで紛争が解決しない場合、最終的には裁判所という司法の場で当事者間の権利・義務を巡る法律関係を終局的に確定することとなります。しかし、訴訟にせよ調停にせよ当事者申立でその過程の全てに対応するには、最低でも半年から場合によっては数年という長期間のエネルギーや心労を伴うものであり、当事者にとっては大変な負担(負のエネルギー)を強いられることになります。
 その意味でも、紛争の発生そのものを未然に防ぐことに加えて、仮に紛争に発展する様相を呈しつつある場合でも、法律実務家として当事者間の法律紛争がかかえる問題を法律的観点から適切に整理し、訴訟という終局的解決手段に至ることなくこれを解決に導くことによって、当事者のエネルギーを紛争処理という負のエネルギーに消費することなく、プラスのエネルギーとして活用してもらうことが可能となること、ここにも予防法務の重要性があります。

5.予防法務からADR 〜多様な紛争解決手段の充実を

 司法制度改革審議会最終意見書は、「ADRが国民にとって裁判と並ぶ魅力的な選択肢となるよう、その拡充・活性化を図るべきである」としたうえで、「隣接法律専門職種等の専門家のADRにおける活用を図るため、(中略)法制上明確に位置付ける」とまとめています。
 これを受けて司法制度改革推進本部に設置されたADR検討部会は、20回に及ぶ会議を踏まえ、「総合的なADRの制度基盤の整備について」とのレポートをまとめたうえで、ADR基本法(仮称)の制定に向けたパブリックコメントを募集しました(募集は2003年9月1日に終了)。
 国家による終局的紛争解決としての裁判制度は当然必要ですが、社会状況の変化と紛争の多様化の中で、隣接法律専門職の一人として、国民にとって使い勝手のよい多様な紛争解決手段として、簡易・迅速・低廉なADR機関の充実・活性化への早急な枠組み作りと法制化が急務であると考えます。

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